「今年もキレイに咲きましたねー!」
ビッグタワー屋上、満開に咲き誇る桜の下で美雲は歓声を上げた。ビッグタワーの桜が満開を迎えたとニュースで聞いた美雲はその日のうちに無理矢理御剣を連れてやってきたのだ。
「意外だな……、君がここに来たがるとは」
「? どういうことですか?」
御剣から発せられた言葉に美雲は首をかしげた。
「君にとってここにはあまりいい思い出はないと思うのだが……」
苦々しく御剣が言うのはおそらく去年、美雲が巻き込まれた事件の事だろう。あの事件で美雲は一時的だが記憶喪失になり、被疑者にまでされかけた。
もしも自分が美雲の立場ならばもう一度ここに来ようとはなかなか思えない筈だ。あのひょうたん湖にすら未だに行く事を躊躇われる。
「もしかしてミツルギさん、去年のこと言ってます?」
「そのもしかしてなのだが」
真面目に頷く御剣を見ると、美雲は何故か沈黙した。二人の周りを風に揺られ散ったはなびらが舞う。強い風が吹く頃、びゅおおっという音に混じり、クスッという笑い声が聞こえた。
「ふふっ、ミツルギさんったら意外と女々しいですね」
「め、めめし……!?」
いきなり浴びせられた一言に御剣は思わず白目をむく。美雲の心を心配して声を掛けたというのに女々しいとは酷いものだ。
狼狽する御剣をよそに背を向けると美雲は歩く。目の前には高いビル群が見える。
「確かに、あの事件はいい思い出じゃないですよ。殺されちゃった人、傷ついた人もいるし、わたしだって痛い目にあったし。でもね、悪い思い出だけじゃないんですよ」
くるりと振り返ると未だに女々しいと言われたショックから抜け出せない御剣に問いかけた。
「なんだと思います? ミツルギさん」
「な、なんだろうか……?」
おそるおそる尋ねる御剣に美雲はウインク。
「ミツルギさんが必死こいてわたしを守ってくれたじゃないですか。とってもいい思い出ですよ」
「…………………………」
必死こいてという一言が妙に突っかかるが美雲の表情から目を逸らせなかった。
「記憶喪失だった頃の記憶はちゃんと残ってるんですよ。わたし、あの時不安で不安で仕方なくて、自分が誰かも分からないしもしかしたら殺人犯なのかもしれないって思ったり。それでも、ミツルギさんがわたしのことを最後まで信じてくれたから……」
風がざわざわと吹き桜が舞う。
「わたし、家族以外の人にあんなに守ってもらったのって初めてだったんです。だからとても嬉しかったし、いい思い出でもあるんですよ。それに、気にしてたらこんなにキレイな景色見られないじゃないですか!」
手を広げる美雲の目の前には満開に咲き誇る桜。ね? と言ってウインクする美雲を見て頬の熱が上昇していく事に気付くと、御剣は慌ててそっぽを向く。
「? どうしたんですかミツルギさん?」
「わ、わたしは君を守るためにではなく真実を追求するためにあんな真似をしたのだからな」
自分でも声が上ずっているのが手に取るように分かる。そして頬の熱も更に上昇していく。美雲はニヤリと笑うとそっぽを向く御剣の腕に無理やり自分の腕を絡ませた。
「ふふっ、まったまたーミツルギさん。大丈夫ですよ、わたしはちゃんと分かってますから」
「なっ、ちっ違うぞミクモくん。それからこの腕を絡ませるのは止めたまえ!」
「もう、照れないでくださいよミツルギさん」
「照れてなどいない!!」
傍から見たらじゃれついてるカップルにしか見えない。だが実際は白目をむいて反抗する御剣に無理矢理に美雲が絡めているだけだ。
しばらく二人のバトルは続いたが、先に体力が尽きた御剣が反抗を止める事で終わった。隣を見るといかにもご満悦という表情をした美雲がいる。ご褒美の魚を貰って機嫌のいい猫のようだと御剣は思った。
何か文句の一言でも言おうとするが、なかなかつっかえて出てこない。気恥ずかしくなるだけで御剣は目の前の桜を見る事だけに集中した。
「ねえ、ミツルギさん」
しばらく黙っていた美雲が声を掛けた。ふっと隣を見ると眩しげな瞳で桜を見つめている。
「また、来年もここに来て桜を一緒に見ましょうね」
いつものハキハキとした声色とは違う、繊細で静かな声に御剣はただ頷いた。言われなくても何回でも、隣にいる少女と目の前の景色を見たいと思ったのだから。
主催のサタ、もとい蒼羽サタです。この度は様々な方々に企画に参加して頂きありがとうございます! ミツミクの企画を全く見かけないので主催してみましたが皆さん楽しめたでしょうか? 至らない主催だったかもしれませんが、みなさんのお陰で無事にWEBアンソロジー公開となりました。どうもありがとうございます。
やっぱミツミクといえば検事2の4話ですよね! それをもとに描いてみました。二人は毎年あのビッグタワーを訪れてたらいいなぁという妄想です。てか御剣はビッグタワーで美雲ちゃんにプロポーズしちゃえばいいと思うよ。
まだまだミツミクで企画を企てているので、まだまだお付き合い頂ければ幸いです。これからもミツミクの二人に幸あれ!